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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)636号 判決 1989年1月26日

原告

山田盈江

被告

有限会社ナセル運輸

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三八三万三二三〇円及びこれに対する昭和五九年五月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その六を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二七一一万一七二八円及びこれに対する昭和五九年五月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五九年五月八日午前八時五八分ころ

(二) 場所 千葉県鎌ケ谷市初富一一一六番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 被告車 普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告平野正秋(以下「被告平野」という。)

(四) 原告車 原動機付自転車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(五) 態様 被告車が、本件交差点に松飛台工業団地方面から五香方面に向けて直進進入したところ、右方道路から進入してきた原告車と衝突した。

2  責任原因

(一) 被告平野

被告平野は、被告車を運転して走行中、本件交差点は左右の見通しの困難な交差点であるから、本件交差点に進入するに際して、交差する道路の交通の安全を確認して走行すべき注意義務があるのにこれを怠り、その安全を確認することなく本件交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告有限会社ナセル運輸(以下「被告会社」という。)

被告会社は、被告車を所有し自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により原告が被つた人的損害を賠償する義務がある。

3  原告の損害

(一) 原告は、本件事故のために、頭蓋骨骨折、脳挫傷、脳内血腫、左肩打撲、左腓骨骨折等の障害を受け、昭和五九年五月八日から同年六月一一日までの三五日間入院治療して血腫除去、頭蓋形成等の手術を受け、同年六月一二日から昭和六二年三月三〇日までの間通院して治療を受けた。しかし、右受傷の結果、原告には左下腿部痛、同部醜状痕、左肩関節運動痛、外傷性脳内血腫による神経系統の機能障害等の後遺障害が残り、右後遺障害は、自動車損害賠償責任保険上、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表第六級の認定を受けている。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおり合計金二七一一万一七二八円である。

(1) 治療費 金二四四万二九一二円

(2) 入院付添費 金一八万四七七八円

(3) 入院雑費 金三万五〇〇〇円

一日当たり金一〇〇〇円、三五日分。

(4) 休業損害 金四八九万三八六二円

原告は、昭和一八年三月一三日生まれの主婦であるが、前記受傷のため本件事故当日である昭和五九年五月八日から同年一二月末日までは全く家事労働に従事できず、以後後遺障害固定日である昭和六二年三月三〇日までは少なくともその労働能力の六七パーセントを喪失したから、その休業損害を昭和五九年分については昭和五九年の、昭和六〇年分ないし昭和六二年分については昭和六〇年の各賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の全年齢平均の年収額(昭和五九年は金二一八万七九〇〇円、昭和六〇年は金二三〇万八九〇〇円である。)を基礎に算定すると金四八九万三八六二円となる。

(5) 後遺障害による逸失利益 金二〇八六万六二一〇円

原告は、後遺障害固定日である昭和六二年三月三〇日当時満四四歳で、六七歳までの二三年間稼働可能であり、その間主婦としての労働能力の六七パーセントを喪失したから、賃金センサス昭和六〇年第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の全年齢平均の年収額金二三〇万八九〇〇円を基礎に、その逸失利益をライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると金二〇八六万六二一〇円となる。

(6) 障害による慰藉料 金一八〇万円

(7) 後遺障害による慰藉料 金八〇〇万円

(8) 損害の填補 合計金一三五七万一〇三四円

(9) 弁護士費用 金二四六万円

よつて、原告は、被告平野に対し民法七〇九条に基づき、被告会社に対し自賠法三条に基づき、各自前記3(二)の損害合計金二七一一万一七二八円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年五月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実について、(一)のうち、本件交差点は左右の見通しの困難な交差点であるから進入するに際して交差する道路の交通の安全を確認して走行すべき注意義務があるのにこれを怠りその安全を確認することなく本件交差点に進入した過失との部分は否認し、その余は認める。(二)は認める。

3  同3の事実について、(一)は認める。(二)のうち、(1)、(2)、(8)は認め、その余は知らない。

三  抗弁(過失相殺)

1  本件交差点は交通整理の行われていない見通しの悪い交差点である。

原告車が進行してきた道路は幅員が交差点の手前で四・八メートル、交差点の先で三・九メートルである。また、被告車が進行してきた道路は幅員が交差点の手前で三・六メートル、交差点の先で四・九メートルであり、松戸市五香六実方面から市川市大野町方面方向にする原動機付自転車を除く車両の通行が禁止されている。

2  右のとおり、本件交差点は幅員がほぼ同じ道路が交わる交差点であるから、本件交差点に進入する際は原告にも徐行し安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、原告はこれを怠り、漫然本件交差点に進入した過失がある。また、原告は、道路交通法三六条一項一号により被告車の進行を妨害してはならない義務があるのに、これに違反した過失がある。さらに、原告は、本件事故当時、乗車用ヘルメツトをかぶつておらず、このため原告の損害が拡大したものである。

以上によれば、本件事故についての原告と被告の過失割合は五対五とするのが相当であり、右割合に応じた過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁の事実について、1は認め、2は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

1  前記争いのない事実に成立に争いのない甲第二号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件交差点は、交通整理の行われていない交差点であり、原告車が進行してきた道路(以下「原告進行道路」という。)は幅員が交差点の手前で四・八メートル、交差点の先で三・九メートルであり、原動機付自転車を除く車両はくぬぎ山方面から松戸市松飛台方面方向にする通行が禁止され、松戸市松飛台方面からくぬぎ山方面に向けて本件交差点に進入するときは、道路標識により一時停止すべきことが指定されている。被告車が進行してきた道路(以下「被告進行道路」という。)は幅員が交差点の手前で三・六メートル、交差点の先で四・九メートルであり、原動機付自転車を除く車両は五香六実方面から市川市大野町方面方向にする通行が禁止され、最高速度は二〇キロメートル毎時に指定されている。被告進行道路、原告進行道路ともアスファルト舗装され平坦であるが、被告進行道路から原告進行道路の見通し及び原告進行道路から被告進行道路の見通しはいずれも悪い。本件事故当時は晴天で、路面は乾燥していた。

(二)  被告平野は、昭和五九年五月八日午前八時五八分ころ、被告車を運転し、被告進行道路を市川市大野町方面から松戸市五香六実方面に向けて約二五キロメートル毎時の速度で進行してきたが、原告進行道路の安全を確認しないまま、本件交差点に約二〇キロメートル毎時の速度に減速して進入したところ、右方から進行してきた原告車に被告車右前部を衝突させた。

(三)  原告は、前記日時ころ、原告車を運転し、原告進行道路をくぬぎ山方面から松戸市松飛台方面に向けて進行し、本件交差点に約一〇キロメートル毎時の速度で進入したところ、前記のとおり被告車と衝突した。

右認定に反する証拠はない。そして、以上の事実によれば、被告平野は、被告車を運転して本件交差点に進入するに際し、原告進行道路の見通しが悪かつたのであるから、このような場合、自動車の運転者としては徐行して左右道路の安全を確認すべき注意義務があるものといわなければならない。それにもかかわらず、本件交差点に約二〇キロメートル毎時の速度に減速しただけで原告進行道路の安全を確認しないまま進入した被告平野には、右注意義務を怠つた過失のあることは明らかである。したがつて、被告平野は、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する義務がある。

2  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

三  請求原因3について

1  請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。

2(一)  治療費 金二四四万二九一二円

治療費金二四四万二九一二円は当事者間に争いがない。

(二)  入院付添費 金一八万四七七八円

入院付添費金一八万四七七八円は当事者間に争いがない。

(三)  入院雑費 金三万五〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、入院中(三五日間)一日金一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる

(四)  休業損害 金五一三万一六五〇円

成立に争いのない甲第四ないし第七号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一、第二、第四、第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時主婦であるとともに、クリーニング店にパートとして勤務していたものであるところ、前記受傷のため本件事故当日である昭和五九年五月八日から昭和五九年一二月末日までの二三八日間これらの仕事に全く従事することができず、以後後遺障害固定日である昭和六二年三月三〇日までは少なくともその労働能力の七〇パーセントを喪失していたものと認められる。そこで、右休業損害を各年度の賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の全年齢平均の年収額(昭和五九年は金二一八万七九〇〇円、昭和六〇年は金二三〇万八九〇〇円、昭和六一年は金二三八万五五〇〇円、昭和六二年は金二四七万七三〇〇円)を基礎に算定すると、次のとおり、金五一三万一六五〇円となる。

2,187,900÷366×238=1,422,732

2,308,900×0.7=1,616,230

2,385,500×0.7=1,669,850

2,477,300×0.7÷365×89=422,838

1,422,732+1,616,230+1,669,850+422,838=5,131,650

(五) 逸失利益 金一一五四万六一〇〇円

前記争いのない原告の後遺障害の内容及び程度に前記乙第一、第二、第四、第五号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故による受傷の結果、左下腿部痛、同部醜状痕、左肩関節運動痛、外傷性癲癇の後遺障害が残り、右後遺障害のため現在でも軽度の労働で容易に疲労し、また、精神活動の面では、計算能力及び記憶力が減退したほか、容易に興奮するなどかなりの障害が生じていることが認められる。右によれば、原告は、前記後遺障害固定日から稼働可能と考えられる六七歳までの二三年間を通じて、右後遺障害のためにその労働能力の四〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そして、賃金センサス昭和六二年第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者学歴計の全年齢平均賃金年収額金二四七万七三〇〇円を基礎として前記労働能力喪失割合を乗じ、同額からライプニツツ方式(二六年のライプニツツ係数一四・三七五一から三年のライプニツツ係数二・七二三二を差し引いた一一・六五一九を係数として用いる。)により中間利息を控除して、右期間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、その金額は、金一一五四万六一〇〇円となる。

(六) 慰藉料 金九〇〇万円

原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金九〇〇万円をもつて相当と認める。

四  抗弁(過失相殺)について

前認定の本件事故の態様によれば、原告は、原告車を運転して本件交差点に進入するに際し、被告進行道路の見通しが悪かつたのであるから、このような場合徐行するなどして被告進行道路の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然本件交差点に約一〇キロメートル毎時の速度で進行したため本件事故に至つたものということができる。右によれば、本件事故の発生に関し原告にも過失があつたことが明らかであるから、右過失を斟酌し、原告の前記損害額から四割を減額するのを相当と認める。

五  損害の填補 金一三五七万一〇三四円

損害の填補額が合計金一三五七万一〇三四円であることについては当事者間に争いがない。

六  弁護士費用 金四〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額等に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告に対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金四〇万円をもつて相当と認める。

七  右によれば、原告の本件事故による損害額は合計金三八三万三二三〇円となる。

八  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告らに対し、各自前記損害合計金三八三万三二三〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年五月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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